予選:4番手 決勝:DNF

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)舞台となったポール・リカール・サーキットは、1999年までロードレース世界選手権が行われており、しげの秀一氏のマンガ「バリバリ伝説」でも描かれている。裕紀は、もちろん初めて走るサーキットだが“バリ伝”で読んだ(見た?)コースという印象も強かったと言う。
事前テストが8月31日・9月1日と2日間あり、このスケジュールに合わせて渡仏。ここで初めて裕紀は、ポール・リカールを走り、有名なミストラルストレートに差し掛かる。
「ここがミストラルストレートかと思いましたね。追い風でスリップストリームが効くとエンジンが吹けきる感じで、とにかく長い。予選で最高速は350km/hオーバー、アクセルを全開にしてから20秒くらい、その中で6速に入ってから11秒くらいもあるんです」

このテスト時のムービーがTSRのウェブにアップされているので、見た方も多いと思うが、2日目のセッション終盤に1コーナーで他車に追突され転倒。この転倒で裕紀は骨折こそなかったものの右ヒザを負傷。アスファルトをすべったため真ん中部分は、酷い火傷となり焼け焦げた状態だった。かなり奥まで焦げていたため、その部分を削って処置してもらっていた。スペイン・タラゴナのチームベースに戻っても壊死した部分が上がって来ると上を切り、化膿しないように消毒を行う治療を何度か繰り返した。

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)そしてレースウイークを迎える。今回は火曜日に走行があったが、走り出しから、いい感触で走ることができ自己ベストも更新。事前テストは、転倒で終わっていただけに、胸を撫で下ろしていた。
木曜日から公式予選が始まるが、あいにくの雨となってしまう。翌日は晴れとなる予報だけに、無理をせずに走り8番手。予報通り快晴となった金曜日に行われた最終予選では、ジョシュ、マイクが1分53秒台に突入。裕紀も調子はよく、最初のアタックでライバルが出て行ったのを見たチームが、よかれと急かしてピットアウトさせるが、うまくいかず不発。一度ピットインし、2回目のアタックは、単独で走ることを決めていたが、アタックラップ中に他車にひっかかってしまう。1分53秒前半は出せていたはずだったが、ひっかかりながらも1分53秒872をマーク。3人のアベレージタイムでは4番手となり、まずまずのグリッドを確保し、ここまでは順調に進んでいた。

しかし、決勝スタートを前にした朝のフリー走行で歯車が狂い出す。それぞれ一度、ガソリン満タンの状態で走り、タイヤの皮むきを行い身体のウォーミングアップを行う予定だったが、最初に出て行ったマイクがすぐに戻って来て“エンジンが吹けない!”と言う。急きょスペアバイクに乗り換え、てんやわんやし、3人とも、ただ乗っただけとなってしまっていた。
メインバイクの方が、満場一致でフィーリングがよく予選を戦ったが、トラブルの原因がハッキリしない状態で決勝は走れない。結局、レースにはスペアバイクで臨むことを決めていた。

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)そして裕紀にとって2度目の24時間耐久がスタートする。15時に始まった決勝は、まずマイクがスタートライダーを務めた。裕紀は、2番手で出て行き周回を重ねる。間もなく最初のスティントを終えようという場面で裕紀は転倒を喫してしまう。
「完全に単独でした。低速コーナーだったのですが、こじって曲げていったら、ちょうどギャップにはまってしまい転倒してしまいました。ステップが少し曲がったくらいで、すぐに起こして再スタートしましたが30秒ほどのロスで済んでいました」

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)1回目の転倒は、最低限の被害で済んでいたが、2度目のスティントに出て行った直後に再び転倒してしまう。
「1周目に様子を見ていたら思いのほかタイムが遅かった。ちょうどカワサキに抜かれてしまったので、ペースを上げて行ったところ、出て行って3周目の1コーナーで一瞬でフロントから転倒してしまいました。ちょっと気温が下がってきていたことも、フロントにハード目のタイヤを入れたことも分かっていましたが、予想以上でした」
グラベルはなく、アスファルトのランオフエリアだったので、左側のステップはなくなっていたものの、レバーは残っており再スタートすることができていたが、マシンの修復に時間がかかり、順位を落としていく。

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)そこからは、ひたすら追い上げて行き、8時間経過時点で6番手につけ、ボーナスポイント5を得ていた。その後、裕紀の走行中に雨が降り始めるが、スリックタイヤのままハイペースで走行。その後、雨が止んだが、コースの状況を一番分かっている裕紀が、そのまま連続走行を敢行することになり、さらに追い上げて行く。

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)しかし、レースも折り返しを迎えようという11時間過ぎにジョシュが走行中にマシントラブルが発生。スローダウンし、マシンが止まってしまう。裕紀は、耳栓をして仮眠をとっていたが“バイクが止まった”という言葉がかすかに聞こえ“夢かな?”と思っていたと言う。
メカニックは、必死に修復を試みたが、再びコースに戻ることはできなかった。

世界耐久 Round 3: -BOL D'OR 2021 (FRANCE)高橋裕紀「ポール・リカールは初めて走るので、基本的にマシンセットはマイクとジョシュに任せて、自分の意見も伝えつつ、今回もギリギリまでセットを進めて行きました。前戦のポルトガルからトラクションコントロールがよくなってきたので、走りやすかったですね。スリックタイヤで雨を走る場面があったのですが、そこでうまく走ることができたのは、自信になりました。転倒してしまったので、少しでも取り戻そうという気持ちもありましたが、夜だったので恐怖心もかなりありました。マシントラブルは残念ですが、気持ちを切り換えて最終戦モストに臨みます」