裕紀にとって新たなチャレンジが始まった。世界耐久選手権（EWC）シリーズにF.C.C. TSR Honda Franceからフルエントリー。マイク・ディ・メリオとジョシュ・フックとトリオを組む。その初戦となったル・マン24時間が6月12日（土）～13日（日）に開催された。当初は4月に予定されていたが、コロナ禍のため開幕が2カ月遅れ、シリーズも5戦から4戦に減って2021年シーズンがようやくスタートしていた。
裕紀は3月にル・マン24時間の舞台となるフランス・ブガッティサーキットでテストを行っていたが、冬の寒さから一転し、夏を思わせる強い日差しが降り注ぎコンディションは一変。寒いときのセットは全部使えなくなっており、まずはタイヤ選択から始めることになっていた。マシンセットに関してはマイクとジョシュで進めてもらい、裕紀は走り込みに専念。公式予選もフレッシュタイヤはマイクとジョシュに託し、裕紀はユーズドでのアタックとなっていた。
初日は5番手につけ、予選2回目はさらに上位を狙っていたが、マイクがアタック中に転倒。マシンを起こしそのまま走行を続けるが、3人のアベレージタイムでは6番手で公式予選を終えていた。
そして土曜日の正午についにレースが始まった。スタートライダーはジョシュが務め、まずは5番手を走行。約1時間を走り切りマイクに交代し、約2時間経ったところで裕紀の最初の走行がやってくる。この時点でトップから1周差の3番手につけていた。
各ライダーともにトップを追いたいところだったが、マイナートラブルが#5を襲い、修復のためピットで時間がかかる場面も見られた。マイクが2回目の走行からピットインする際には、ガス欠となりマシンを押してくる。バトンを譲り受けた裕紀は、チームスタッフにマシンを押してもらう、押しがけでピットアウトしていく。これはガス欠をした影響で、ガソリンが行き渡っていなかったためだった。
1/3となる8時間が経過した時点でトップとは4周差の3番手となっていたが、2番手を走っていたチームがトラブルで脱落し、ポジションアップ。夜中のスティントに突入していく。
「夜中になるとペースが下がるかと思いきや、日中と全く変わらない。むしろ昼間よりコンディションもよく、速く走るライダーもいるくらいでした。ジョシュは夜中に自己ベストを出していましたからね。自分自身も思っていたよりも走れました。涼しかったですし、ライトもきれいでしたね」
1時間をちょっと欠けるくらいの57、58分というスティントで3人のライダーは走行をこなし、夜がうっすらと明けてくる。夜明けを迎えるスティントを裕紀はこなし、ジョシュに交代する。そのジョシュが走行を終え、マイクに変わった際にマシントラブルが発生。この修復に約30分間かかってしまい6番手に降順。
この時点で、残りはまだ6時間あった。藤井監督から“ここが頑張りどころだ。きついと思うけれどペースを上げて行こう”と指令が出る。
裕紀は誰よりも速いペースで周回し、マイクもジョシュも全力の走りを見せた。しかし、ジョシュが転倒を喫してしまう。ピットに自力で戻り、チームはマシンを修復。13番手まで落ちていたが、そこから再び追い上げていく。裕紀は、最後のスティントを担当し、10位でゴール。その後、上位で失格になったチームがあり、一つ繰り上がり9位という結果を残したのだった。
高橋裕紀「本当にすごいレースですね。体力、気力が必要ですし、24時間をこうゆう使い方があるんだな、と思いましたね。ゴールライダーをやらせてもらったこともあり、完走できたことは、すごくうれしかったですし感動しました。これで成績がついてきたら、もっとうれしかったんじゃないかと思います。スタート前は不安な部分もありましたが、帯同してくださったトレーナーさんのおかげで、8スティントをこなすことができました。それでも身体がこんなに痛くなるんだってくらいの疲労感は初めてですし、同時に今までになかった達成感も味わうことができました。チーム、そして応援してくださった皆さんのおかげで完走できました。この経験を活かして、残り3戦でいい結果を求めていきたいですね」